お客様から最初に届いたのは、タンクハーフソールがボロボロに崩れたベックマンの写真でした。
前側のラバーは加水分解が進み、突起が欠け、触れるとさらに崩れてしまう状態です。
この症状だけを直すなら、加水分解した前側だけを交換する方法もあります。
しかし今回のお客様が希望されていたのは、元の構成へ戻す修理ではありませんでした。
Vibram #100、3mmレザーミッドソール、革を積み上げたヒールを使い、靴底全体を作り替えるオールソール交換です。
修理費用の目安は28,000円+消費税、納期の目安は約2か月です。

完成イメージが最初から決まっていたご相談
今回のご相談は、LINEから始まりました。
お客様からは修理前の状態が分かる写真に加えて、希望する完成イメージの写真も送っていただいています。
使用するソールだけでなく、レザーミッドソールの厚み、ヒールの積み上げ方、コバの色まで、ご希望の仕様が具体的に決まっていました。
そのため、今回は「前側だけ直すか、全部交換するか」を一から迷って決めた案件ではありません。
最初からオールソール交換を前提に、ご希望の仕上がりで施工できるかを確認し、費用と納期をご案内しました。
内容にご了承いただいたあと、ブーツを当店まで送っていただき、正式なご注文となっています。

加水分解していても、必ず全部交換するわけではありません
ベックマン9014では、前側のタンクハーフソールだけが加水分解し、かかとや革底はまだ使えるという状態がよく見られます。
そのような場合は、傷んだ前側だけを取り除き、新しいハーフソールへ交換する方法があります。
かかとの減りが少なく、革底も使用できる状態で、純正に近い構成を残したい場合には、部分修理の方が費用も抑えられます。
ベックマン9014の加水分解を、Vibram #2333で前側だけ修理した事例はこちらで、部分交換の内容と仕上がりをご覧いただけます。
一方で、かかとも大きく減っている場合や、靴底全体が傷んでいる場合、今回のように見た目を大きく変えたい場合には、オールソール交換が選択肢になります。

今回はソール構成そのものを作り替えました
今回の仕様は、すべてお客様からご指定いただいた内容です。
- アウトソール:Vibram #100 ブラック
- ミッドソール:3mmレザーミッドソール
- ヒールベース:革2枚積み上げ
- ヒール形状:後方へ丸みを持たせた仕上げ
- コバ:ライトブラウン
前側だけを交換する修理では、基本的に元の革底やヒール構成を残します。
それに対してオールソール交換では、アウトソール、ミッドソール、ヒールの高さ、コバの色まで組み替えられます。
同じベックマン9014でも、靴底の厚みとヒールのバランスが変わることで、横から見た印象は大きく変わります。

Vibram #100だけで、この見た目になるわけではありません
Vibram #100は、深い凹凸を持つラバーソールです。
底面のパターンだけを見ると、かなり無骨でボリュームのある印象があります。
ただし、今回の仕上がりを決めているのはVibram #100だけではありません。
3mmのレザーミッドソールを加え、ヒールに革を2枚積み上げ、コバをライトブラウンで仕上げたことで、黒いソールの間に革の層が見える構成になっています。
ベックマン9014のアッパーには、ブラックのフェザーストーンレザーが使われています。
黒いアッパーと黒いVibram #100の間にライトブラウンを入れることで、靴底の輪郭が埋もれず、横から見た層がはっきりしました。

ゴツく見えても、Vibram #100は案外曲がります
Vibram #100は、見た目だけを見ると分厚く、硬くて歩きにくそうに感じるかもしれません。
しかし、底面全体が同じ厚みの一枚板になっているわけではありません。
突起の高い部分と、その間の薄い部分で構成されているため、見た目から想像するほど前足部の曲がりが悪いソールではありません。
実際に履いた方からも、外見ほど硬さを感じなかったという声があります。
ただし、今回のようにレザーミッドソールを加えると、純正仕様より厚みと重量は増します。
履き心地はソール単体ではなく、ミッドソールやヒールを含めた構成全体で変わると考えた方がよいでしょう。

履き心地で最も変わるのはヒールの高さ
純正仕様との違いを感じやすいのは、Vibram #100の凹凸よりもヒールの高さです。
今回はヒールベースに革を2枚積み上げているため、純正のベックマンよりもかかとの位置が高くなっています。
見た目はヒールが持ち上がり、横から見たシルエットが引き締まります。
一方で、足が前方へ傾く角度も変わるため、純正のベックマンの履き心地に慣れている方は、最初に違和感を覚える場合があります。
エンジニアブーツほど極端に高いヒールではないため、ヒールのあるブーツを何足か履いている方であれば、特別扱いにくい高さではないと思います。
ただし、純正と同じ足の角度を残したい方には、今回と同じ積み上げ枚数をおすすめしない場合があります。

前側だけの修理と、全部交換する場合の違い
前側だけの交換が向いている場合
- 加水分解しているのが前側だけ
- かかとの減りが少ない
- 革底をまだ使用できる
- 純正に近い見た目を残したい
- 修理費用を抑えたい
オールソール交換が向いている場合
- かかとも大きく減っている
- 靴底全体を長く使用している
- アウトソールの種類を変えたい
- レザーミッドソールを追加したい
- ヒールの高さや形を変えたい
- コバの色を含めて印象を大きく変えたい
タンクハーフソールだけの交換と、オールソール交換では、修理内容によって費用が倍近く違う場合があります。
傷んだ部分だけを直すのか、費用をかけて構成全体を作り替えるのかは、予算と納期、修理後にどのように履きたいかを含めて決める必要があります。

オールソール交換をおすすめしない場合
靴底全体を交換すれば、さまざまな仕様へ変更できます。
しかし、変更できる範囲が広いからといって、すべてのベックマンにオールソール交換をおすすめするわけではありません。
前側だけを交換すれば問題なく履ける状態で、純正の見た目や履き心地を残したい場合には、部分修理の方が目的に合っています。
また、今回の構成では純正よりも重量、厚み、ヒールの高さが増します。
軽さを優先する方、低いヒールを好む方、現在のシルエットを変えたくない方には、同じ仕様をおすすめしないことがあります。
オールソール交換後に、簡単に純正仕様へ戻せるわけではありません。
ヒールの高さ、ミッドソールの厚み、コバの色は、注文前に完成写真を見ながら確認しておくことが大切です。

費用と納期の目安
今回の仕様での費用目安は、28,000円+消費税です。
納期の目安は約2か月となります。
この金額には、Vibram #100、3mmレザーミッドソール、革2枚の積み上げヒール、ヒールの成形、コバの着色を含みます。
ただし、近年は為替や原油価格などの影響により、ソール、革、接着剤などの資材価格が短期間で変更されることがあります。
この記事に記載した金額は目安です。ご注文時期や靴の状態によって、費用が変わる場合があります。
また、ウェルトや靴底内部に追加修理が必要な場合には、状態を確認し、作業内容と追加費用をご説明したうえで進めます。
ベックマンのソールが崩れてきた場合、前側だけを直す方法と、今回のように全体を組み替える方法のどちらも選択肢になります。
費用を抑える修理が常に正解でも、すべて交換する方が常に良いわけでもありません。
現在の靴底の状態と、修理後に求める見た目や履き心地を確認しながら、交換範囲を決めるのがよいと思います。
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